始めの言葉

「プリンターから印刷できて当たり前」と、ユーザーからもSIerからも軽視されがちなプリンターの世界ですが、実際にはお困りだったり、思ったような印刷結果が得られないまま我慢してお使いの皆様のために、今までの経験が役立てばと、このブログを立ち上げました。印刷の基本から、応用情報、問題の解決方法を情報発信すると共に、PDF化など、これからどうするかについても、ご相談に乗れれば幸いです。ご質問はコメントでお寄せください。

2017年4月22日土曜日

IBM 小型レーザー・プリンターの今まで -第8回- "PAGES"-2

1988年に発表された初代の "5587-G01" や、翌年 1989年の "4216-510"のコマンドは、"5577互換"レベルか、その拡張の "3222" レベルまででした。
"PAGES" に初めて対応したのは、1990年に発表された、"5587-G01"と同じ筐体の "5587-H01" プリンターでした。
そしてその翌年、1991年には、より小型で安価な "5585-H05" プリンターを発表しています。
"5587" プリンターは、A3 サイズの用紙までに対応していましたが、その結果、次のような課題がありました。
- プリンター全体が大きくなった。
- 高めの価格となった。
- 当時、A3 サイズのプリンターの需要は小さかった。
そこで、B4 サイズまでの用紙に対応し、小型化も実現した、別のプリンター・メーカー製の機構を採用して、"5585-H01" プリンターが企画されました。
私は、プリンターの製品企画の担当者として、営業部門のマネージャーの方から、PAGES コマンドに対応したソフトウェアを揃えない限り、お客様はレーザー・プリンターの良さが使えないのだから発表できないと発破を掛けられたことを、良く覚えています。
OS である J-DOS や、OS/2 を始めとして、IBM 製ワード・プロセッサープロである"DOS文書プログラム"、OS/2 用の IBM 製アプリケーション"Smartシリーズ" などのサポートを得ることができました。
ソフトウェア製品を開発する側から見れば、PAGES コマンドに対応すれば、そのソフトウェアがどれだけ多く売れるかという見方になるのは当然です。そのような目で見れば、開発の手間に見合うだけの成果を、プリンター部門から保証することは非常に困難です。それでもサポートを得られたのは、私に発破を掛けてきた営業部門のマネージャーの方からの支援によるものだったと、今でも深く感謝しています。

5585-H01 レーザー・プリンター
ただ、1991年は私にとっては大きな変革の年でした。世界中の IBMに「分社化」の嵐が吹きまくり、日本の開発部門の中では、真っ先にプリンター開発部門が、TEC 社(今の東芝テック社) との合弁会社に切り出されてしまったのです。
"5585-H01"プリンターは、秋の発表の直前に分社化という大きな荒波を受けました。私自身はその新会社に異動しなかったことによって、発表のための最終的な作業を行なえず、どうなることか心配しましたが、何とか発表に漕ぎ着けることができました。(新会社発足直後に、その社長に対して、このプリンターの発表の意義を説明に行ったことを、良く覚えています。)

アプティと名付けられた新会社からは、その後、PAGES 対応のレーザー・プリンターが次々と発表されていきました。
1992年には、最大 A3 サイズ対応の"5589-H01"、
1993年には、最大 A4 サイズ対応の"5584-H02"、"5584-G02" プリンターが発表されています。

この "5584-H02/G02" プリンターで、それまでの "PAGES" 対応のプリンターと大きく変わったことがあります。それは、解像度です。"PAGES" 以前の "5587-G01" から "5589-H01" までの解像度は、240DPI という日本のレーザー・プリンターに共通の値でしたが、"5584-H02/G02" では、360DPI という値に変わったのです。何故、わざわざインパクト・プリンターの2倍の解像度に変更したのかは、その場にいなかった私には不明ですが、プリンター機構部を製造する OEM メーカーから見れば、特殊な解像度のモデルを製造しないとなりませんから、製造コストには影響があったのではないかという疑問は残ります。
5589-H01 プリンター
5584-H02 プリンター


2017年4月16日日曜日

IBM 小型レーザー・プリンターの今まで -第7回- "PAGES"-1

PC(Personal Computer) の OS(Operating System) が、Windows と、iOS となった今から見れば、苦笑するようなことでしょうが、個人用のコンピューターという意味での PC が、IBM では "PS/55" だった時代には、レーザー・プリンターのメーカーが他社に比べて優位に立つには、自社独自仕様のコマンドの機能を、いかに多くのアプリケーション・ソフトウェアに対応してもらって、「業界標準」の地位を獲得するかにかかっていると考えられていたものです。
しかし、この考え方は、何もプリンターに限った話ではなく、当時は画期的だった OS、"OS/2" であれ、PC 自体であれ、あるいはゲーム機であれ、使えるアプリケーションの種類が多くないと、生き残ることができないという点では、共通のものではないでしょうか ?

IBM のプリンター開発の本部である Boulder(コロラド州) では、ちょうど、メイン・フレームや AS/400 から、直接プリンターにグラフィカルな印刷を行なうための "AFP(Advanced Function Printing -> 後に Presentation)"というアーキテクチャーを実現するための "IPDS" というコマンド体系を定義していました。
そこで、日本でもこれを元に "PAGES" という PC 向けのレーザー・プリンターのコマンド体系を定義しました。
"PAGES" を定義するに当たっては、先行して複数のアプリケーション・ソフトウェアが対応していた "5577" コマンドと互換であることは、当然の前提です。
これは、別の表現で言うと、"5587-G01" プリンターのオプションで対応した "3222" コマンド体系の拡張ということになります。

実際に、"PAGESコマンド解説書"の概要を見てみると、このコマンドは、次のように分類できることが分かります。

(1) 基本制御コマンド
"5577" コマンドと同じか、その拡張コマンド

(2)拡張制御コマンド
"PAGES" で追加されたコマンドで、"ESXコマンド" と "グラフィックス・コマンド" に分かれます。
"PAGES"コマンド体系
 しかし、現在でも使用されるコマンドは、PDT ファイルを使ったプリンター・セッション経由の印刷や、HPT(ホスト印刷変換)機能を使った、OS/400 からの直接印刷で使用されるコマンドに限られると言って良いのではないでしょうか ?
それらは、その使用目的から自然と、ページ全体に対する制御を行なうコマンドとなります。

1. PAGESモード設定
1B 7E 12 00 01 11

2. メディア座標原点(用紙回転)
1B 7E 50 00 01 00 => 用紙縦長
1B 7E 50 00 01 03 => 用紙横長

3. 用紙トレイ選択
1B 7E 46 00 05 00 00 nn 00 00
nn = 11 => A3 トレイ指定自動選択
nn = 13 => A4 トレイ指定自動選択
nn = 00 => 第 1 給紙カセット指定
nn = 01 => 前面トレイ指定
等々

4. 両面印刷指定
1B 7E 3B 00 04 00 00 nn 01
nn = 00 =>片面印刷指定
nn = 01 => 両面:長辺綴じ
nn = 02 => 両面:短辺綴じ

5. 縮小指定
1B 7E 51 00 01 nn
nn = 03 => 連続用紙サイズ(15x11 インチ) -> A4
nn = 02 => 連続用紙サイズ(15x11 インチ) -> B4
nn = 01 =.> 縦横 75%
等々

6. 余白設定
1B 7E 53 00 0A 00 X座標オフセット 00 Y座標オフセット 00 00

つまり、これらのコマンド以外のもの、例えば次のようなコマンドは、プリンター側に機能としては持たせたものの、アプリケーション・プログラムから使われることはほとんど無しに、Windows のプリンター・ドライバーを使った印刷の時代に変わってしまったということです。
- フォーム・オーバーレイ
- 32 x 32 ドットの外字のダウンロード
- 内蔵アウトライン・フォントの使用
- ベクトル座標を使った図形の記述
- グラフィックの記述



2017年4月8日土曜日

IBM 小型レーザー・プリンターの今まで -第6回- "PAGES"まで

"5587-G01" レーザー・プリンターが発表された頃は、日本独自の製品であった"マルチステーション 5550 シリーズ" から、World Wide 標準製品である "PS/2" シリーズの日本語対応版である "PS/55"シリーズに切り替わっていく時代でした。
その移行に対応するために、プリンター側としては、"コンバージド・インターフェイス"と"3バイトECC"に対応しています。
"コンバージド・インターフェイス"と"3バイトECC"については、"プリンターへのデータの流れ - レベルE機能と双方向通信 -"の回をご参照ください。

コンバージド・インターフェイスに対応したプリンターとしては、ドット・プリンターである"5577-G01"が先に発表されています。
ちなみに、"PS/55"では、"PS/2"に対して、日本語フォントをメモリーに内蔵したディスプレイ用のカードを搭載していました。
そして、OS である"J-DOS"は、文字を文字コードとして処理し、画面にはディスプレイ・カードに内蔵した日本語フォントのイメージを表示するという方式を使っています。
ちなみに、"5550 シリーズ"では、"K-DOS"( 漢字 DOS の意味)でしたし、"PS/55" の後の "PC/AT" 互換機では、"DOS/V" となって、共にソフト・フォント(メモリーではなく、ソフトウェアとしてのフォント) となっている点が、大きく異なります。
これは、ちょうどプリンターによる印刷も同じ原理で、J-DOS からは文字コードがプリンターに送られ、プリンターは内蔵しているフォントのイメージを印刷します。
例えば、"5587-G01" プリンターは、240DPI(ドット/インチ)の解像度で、32 x 32 ドット構成の文字を内蔵していましたから、文字コードが送られてくると、32 x 32 ドット構成の文字イメージを印刷します。
この文字が、解像度 180DPI のドット・プリンターが内蔵する 24 x 24 ドット構成の文字と同じ大きさになることは、比例計算すればお分かりになると思います。
"5587-G01" プリンターは、24 x 24 ドット構成の文字、つまりドット・プリンターと同じ文字も内蔵していました。こちらの文字を使うと、ちょうど 3/4 に縮小された文字を印刷することができました。

この当時、"PS/2" から "PS/55" が開発されたように、プリンターの世界でも World Wide 製品を元に日本語対応した製品を開発するという方式が、流行りました。そのレーザー・プリンター版が、"4216-510" プリンターです。
4216 プリンター本体(本来は右に給紙トレイが付く)

"4216" プリンターは、"5587-G01" のプリンター OEM 製造元の会社が開発した、小型のレーザー・プリンターで、接続先のシステムによって、いくかのモデルに分かれます。
それに対して、日本で、"5577互換" の機能(コマンド対応、日本語フォント内蔵)追加を行なったのが、"4216-510" になります。
開発期間の短縮化も求められていたため、"5587-G01" と同じ "3222"互換ではなく、"5577" 互換レベルとしたことは、今から思えば一つの見識だったと思います。
プリンターの機構自体は、小型化を追求した設計となっていて、良いプリンターでしたが、残念ながら対応する用紙サイズが "A4" まででは、国内ではあまり受け入れられませんでした。

一方、その間に、国内の他のレーザー・プリンター・メーカーは、各社独自のコマンド体系を拡充し、それを様々なアプリケーション開発会社に持ち込んで、サポートしてもらってその数を競っていました。そこで、当時のプリンター開発グループでも、各社のコマンドを調査したり、IBM World Wide では標準規格として定義されてきたばかりの "IPDS(Intellient Printer Data Stream)" に習って、"PAGES"(Page printer Advanced Graphics Escape Set)を定義しました。
そして、他社に習って、コマンド解説書を本として準備し、社内のソフトウェア・グループはもちろん、社外のソフトウェア開発会社やユーザーにも情報提供始めました。
"PAGES" のコマンド解説書は、Web でも公開しています
そして、"PAGES" を装備したプリンターとして始めて発表されたのが、"5587-H01" プリンターです。

2017年4月1日土曜日

IBM 小型レーザー・プリンターの今まで -第5回- 5577互換からの拡張と更なる拡張

J.D.氏が赴任される前までのチームの方針は、プリンターの機能の中核を成すマイクロコードと、それを実装する制御基板は、アーキテクチャーと基本設計を内製することでした。
しかし、J.D.氏の方針は、"3812"プリンターで採用した外部会社のアーキテクチャーと基本設計を基礎とすることでした。
IBM 3812 プリンター

- アーキテクチャーとしては、2層構造となっています。つまり、実際に印刷するイメージを生成する層と、入力データを処理して印刷イメージを生成する層の内部処理に渡すためのデータ変換を行なう層でできています。その効果として、PC からの印刷データ以外にも、AS/400 や、汎用コンピューターからのデータに対しても、データ変換層を変えるだけで対応できるという点があります。

- ハードウェアとしては、当時はまだ珍しかった"3.5 インチ・フロッピー・ディスク"にマイクロコードを格納して、起動時に読み込むようにできていました。これによって、マイクロコードの修正や、機能拡張があっても、フロッピー・ディスクの内容を書き換えるだけで簡単に対応可能になります。

私たち、チームのメンバーは、自分たちの力が発揮できる、別の表現をすれば外部会社に依存することを避けられる内製を主張したのですが、最終的には、J.D.氏の方針で進めることに決まりました。この決定までの時間も、開発全体の遅れに影響したことは、否定できないと思います。

もう一方の、重要な要素であるレーザー・プリンターの機構部分も、どの OEM メーカーのものを採用するか決まるまでも時間を要しました。
特定のお客様向けに開発した "5569" レーザー・プリンターの経験から、国内で多くのお客様に採用していただける製品とするには、用紙サイズは "A4" だけでは不十分で、"B4"サイズも必須であることは分かっていましたので、その条件を元に、J.D.氏と共に、開発中の OEM 製品を何社も見て回ったものです。
実は、メンバーの間では某社の B4 サイズ機に決めていたのですが、突然、天の声がかかり、まだ試作機段階以前とも言えるレベルの、別の会社の A3 サイズ機を採用することになってしまいました。大は小を兼ねると言いますが、さずがに A3 サイズの用紙に対応するプリンターとなると、かなり大きくなります。それにも増して、デスク・トップ型のコピー機としてできているだけで、これから改造してプリンターとするわけですから、とても短期間では困難であることは明らかです。
案の定、開発期間は長期化し、最後に、そのメーカーのリーダーの方が、原稿を元にコピーを作成する機械と、原稿そのものを作成する機械では、印字品質一つをとっても、要求されるレベルが全く違うことが良く分かりましたとおっしゃっていたことを、よく覚えています。

開発期間が長期化した影響もあって、製品としての価格が予定よりも高くなってしまうことも、問題となりました。そこで、J.D.氏のアイデアで、プリンターの構成を次のように分けることになりました。
- 基本モデルは、5577互換レベルの機能
- 追加オプション(基盤のカードに指す、カートリッジ)によって、"3222"と呼んだ、レーザー・プリンターとしてのコマンド機能を追加
という構成です。
"3222"と呼んだ機能の主なものは、5577コマンドに追加する機能として下記のとおりです。
- 用紙方向縦/横の切り換え
- 縮小印刷
- 給紙トレイの指定
- 明朝体とゴシック体の内蔵フォントの切り換え
- 解像度 240DPI のイメージ・データ
- 32 x 32 ドットで構成された外字

このようにして、発表されたのが、"5587-G01" プリンターです。
(残念ながら、写真等を残していないので、形をお目に掛けられません。)

一方で、当時、PS/55 の OS は、J-DOS と OS/2 で、その上で稼動するアプリケーションが、直接印刷データを生成する方式でした。
今の Windows のプリンターに付属するドライバーが印刷データを生成する方式と異なり、様々なアプリケーション・プログラムが直接、プリンターが持っているコマンドを発行することで、初めてそのプリンターの機能を使って刷できるという方式です。
従って、いくらプリンター側で高機能なコマンドを用意しても、アプリケーション・プログラムがそのコマンドを送って来なければ、宝の持ち腐れでしかありません。
そのため、レーザー・プリンターを販売する各社は、それぞれ独自の定義で決めたコマンドを、様々なアプリケーション・プログラムのメーカーに開示して、対応していただくよう働きかけをしていたものです。
例えば、ワープロ(文書作成)プログラムでは、"一太郎"が圧倒的なシェアを占めていましたので、各プリンター・メーカーは、開発元であるジャスト・システム様に日参していたはずです。
つまり、当時のレーザー・プリンターのメーカーは、独自コマンドを拡張し、それに対応するアプリケーション・プログラムを増やし、その結果、自社コマンドが業界標準の地位を築くことを目指していたという訳です。

私も、IBM 社内のソフトウェアの開発チームに対して、"3222" のコマンド対応をお願いして回りましたが、各製品の開発項目の優先順位とリソースの関係もあって、なかなか思ったようには進みませんでした。最終的に、OS/2 や J-DOS という OS の開発チームからは、32 ドット対応の外字をサポートするという協力はいただけたのですが、当初は、何故、外字の対応だけなのかが理解できていないというありさまでした。
コマンドの拡張に関しては、プリンター開発チームの中で、他社のものと同等以上のものを目指して行なわれ、後に "PAGES" と呼ぶ、コマンドのセットが定義されました。


2017年3月26日日曜日

IBM 小型レーザー・プリンターの今まで -第4回- 5577互換からの拡張(続)

PS/55 向けの標準レーザー・プリンターの開発は、当初、製品企画の私の他は、機構部分の担当者、データ処理基盤の担当者、マイクロコードの担当者が、それぞれ 1 名ずつという少数精鋭 (?) チームで構成されていました。
当時は、ちょうど、システム36 やシステム38 がAS/400に変化していく頃で、そのプリンターとして、ライン・プリンターの他に、連続用紙対応のレーザー・プリンターの開発が行なわれていて、そちらに開発のエンジニアの大部分が割かれていたということが、少人数体制となったことに大きく影響していると思います。
因みに、その連続用紙対応の方のレーザー・プリンターは、"5337-001" というプリンターで、元々連続用紙用に OEM 元で開発されたものに対して、カット紙も扱えるように機構を追加したという、これまたレーザー・プリンターの世界では、空前絶後のプリンターでした。
話は、横道に逸れますが、このプリンターは、他にも、当時でも珍しい特徴がありました。それは、トナーの定着方式に、"フラッシュ定着"という方法を採用していたことです。

IBM 小型レーザー・プリンターの今まで -第1回- その黎明期 の中でお話したように、感光ドラムから、用紙の表面に移したトナーは、多くの場合、熱と圧力を使って、用紙の中に定着させます。
定着方法には、他に、"フラッシュ定着"と、"圧力定着"があります。

"圧力定着"は、文字通り、トナーの乗った用紙を、圧力の掛かった上下のローラーの間を通すことで、トナーを用紙の中に定着させる方式です。
この方式を使ったプリンターとしては、"5337"プリンターの前に開発された"5583-200"プリンターがあります。今や私の手元には画像も残っていませんが、IBM i(OS/400) の資料には、未だに 32x32 ドットの日本語プリンターのモデルとして名前が出てきます。
"5583-200"プリンターは、OEM 元から提供を受けたプリンター本体に対して、"コントローラー"と呼んでいたデータ処理部分を自社開発してできた、カット紙用のプリンターです。
解像度は、240DPI であったことと、圧力定着方式のため、用紙が定着機構を通過する時に、"ゴットン"と音が発生したいたことを覚えています。
トナーの定着の評価は、粘着テープを付けて剥がしたり、消しゴムで擦ったりして行ないますが、"圧力定着"方式は、どうしても熱定着ほどの定着の良さはありませんでした。もちろん、省電力という点では優れた方式と言えると思います。
また、このプリンターの機能を活用するために、KPF(Kanji Print Facility) というソフトウェアーも併せて開発されましたが、期待ほどの台数は売れなかったようです。

一方で、"5337-001"で採用されていた"フラッシュ定着"方式は、カメラのフラッシュと同様に、強力な光を用紙に当てると、黒いトナーに光エネルギーを吸収されることで、トナーが溶けて紙に定着するという方式です。
この方式の良さは、用紙に圧力を掛けないため、用紙に対する制約が少ないことです。つまり、熱や圧力の伝わり辛い厚紙や、熱や圧力を掛けると、糊がはみ出てきてローラーに張り付いたり、汚したりするラベル紙も使用できるということです。
逆に、大量の光エネルギーを発生させるため、電源として 200V が必要になることや、トナーが自分で溶けて紙に定着するため、定着の程度が不安定な点に、制約があります。
実際に、この "5337-001" プリンターの開発でも、一定の印字品質を実現させるために、OEM 元のメーカーも巻き込んで、かなりの時間を費やしました。
しかし、その後、他社の連続用紙用の高速レーザー・プリンターでは、フラッシュ定着方式の改善が進んでいたようで、熱定着方式よりも次の点で優れていると評価されるケースが多いようです。
- 用紙の制約が少ない
- ヒーターの温度上昇を待つ時間が不要なので、用紙の架け替えが多い運用では、印刷開始まで待ち時間が短い。

なお、"5337-001"プリンター用には、240DPI の解像度を持ち、連続用紙とカット紙の切り換えや、レーザー・プリンターとしての機能を活用しやすくするために、APPW(Advanced Page Printer Writer) というソフトウェアーも併せて開発されました。
ライン・プリンター用には、罫線やバーコード、文字拡大の指定を行うために "APW(Advenced Printer Writer)"が開発され、今でも使用されているユーザーがいらっしゃいますが、そのレーザー・プリンター用のものが、"APPW"と言えます。
このプリンターも、残念ながら、計画ほどの実績を上げることはできませんでした。
5337-001プリンター外観図

さて、話を元に戻します。少数精鋭チームのマネージャーとしてアサインされたのは、US の Boulder の研究所で、レーザー・プリンターの開発の指揮を執られていた、J.D. 氏でした。
彼が開発した "3812" というプリンターは、AS/400 の世界でも、デバイス・タイプとして名前が出てくるような、標準プリンターでした。
私としては、初めての外人の上司になったわけですが、今、思い返してみると、当時の私の未熟さもあって、本質的な意味でのコミュニケーションができていなかったという反省が残ります。

2017年3月19日日曜日

IBM 小型レーザー・プリンターの今まで -第3回- 5577互換からの拡張

コンピューターの世界では、"アーキテクチャー"という言葉が良く出てきます。それだけ、"アーキテクチャー"を重要視していると言えるかと思います。
周辺機器であるプリンターでも、IBM では、システムからのデータを印刷するためには、システムとの整合性を持つために、"アーキテクチャー"に則っている必要があると、当然のように考えられていました。
プリンターの場合、"アーキテクチャー"を言い換えれば、そのプリンターが持っている制御コマンドのセットとなると思います。
例えば、24x24 ドットの漢字を印刷できるインパクト・プリンターにおいては、初めは、"マルチステーション5550(24 ドット・モデル)" から送信されて来る、縦 24 ドットのイメージをそのまま印刷する"5553-B01"モデルと、16 ドットのモデルから送られて来る、縦 16 ドットのイメージをそのまま印刷"5553-A01"モデルが持っている制御コマンドのセットが全てでした。
5550シリーズ用5553プリンター

しかし、その後、縦 16 ドットのシステムも、24 x 24 ドットの文字で印刷できるようにせよという神の一声の下、文字イメージの代わりに文字コードで印刷データを送り、プリンターは、内部の ROM (読み取り用メモリー)に記録されている 24x24 ドットの文字の中から、その文字コードに該当する文字を印刷するという方式が機能追加されました。
そのモデルが、"5553-B02"(末尾の "2" は、内蔵フォントを持っているという意味)だったのですが、実際には、その後シリーズ化された代表モデル "5577シリーズ" の名前から "5577" コマンド(モード)と、いつか呼ばれるようになりました。
このコマンドのセットを持つ 24 ドットインパクト・プリンターは、"5577シリーズ"の他に、"5573シリーズ"、"5557シリーズ"、"5579" などがありますが、どれも"同じアーキテクチャーのプリンター"ということになります。

レーザー・プリンターになると、インパクト・プリンターと比べて、解像度が異なるだけでなく、ページ単位の処理を行うためのメモリーを持っているため
- 用紙方向を縦長、横長の切り替える
- 縮小や拡大して印刷する
- 両面印刷する
- 用紙に対する上下左右の余白の値を設定する
- 用紙ジャムが発生した場合、そのページから再印刷する
- プリンターに保管した罫線や固定文字(所謂オーバーレイ)と受信データを重ね合わせて印刷する
ことができます。
また、用紙送り機構の違いから
- 複数ある用紙トレイや、排紙トレイを選択する
といった点も、インパクト・プリンターと異なります。
これらの機能を使えるようにするには、対応する制御コマンドを定義して、プリンターに持たせる必要があります。
PS/55 用の標準プリンター製品の一つとしてのレーザー・プリンターを開発するに当たって、開発チーム内部では、当時、"3222"と読んでいたアーキテクチャーは先に決まっていたのですが、それを実装するコントローラー基盤と、プリンターの機構(エンジン)部分の OEM 元製品の選択や、その後の開発において、様々な課題が発生したため、計画以上の時間が掛かることになってしまったのです。
PS/55の元になったPS/2

2017年3月12日日曜日

IBM 小型レーザー・プリンターの今まで -第2回- その黎明期(続き)

レーザー・プリンターの印刷原理となっている電子写真方式の現像方式には、2 種類あります。
"電子写真"という言葉どおり、電子を使う"写真"ですから、初期の複写機では、写真と同じように光の当たった場所は白く、光の当たらない場所は黒くなりました。
具体的には、原稿に光を当てて、その反射光を感光ドラムに当てます。
そうすると、原稿の中でも光が吸収される黒い部分(文字)は、感光ドラムに光が届きません。
逆に、光が反射する、原稿の白い部分は反射した光が感光ドラムに当たります。

感光ドラムは、予め、帯電といって、表面に均等に電子が並んでいる状態にあります。
光の当たった部分は導体となるので、電子が流れて無くなります。
光の当たらなかった電子が残っている部分にトナーが付着して、それを紙に転写します。
最後はトナーを熱と圧力で紙に定着させます。
この現像方法は、写真と同じように光の当たった部分が白くなるので、"正規現像"と呼びます。
全面に、黒にトナーが付着した紙に対して、欲しいイメージの部分だけを残すように、光がトナーを掃いて白くしていくイメージを思い描いていただければ、良いと思います。

一方、その逆に、光が当たって箇所にトナーを付ける現像方法もあり、これを"反転現像"と呼びます。白い紙に、光が欲しいイメージを黒く描いていくイメージを思い描いていただければ良いと思います。今のレーザー・プリンターはこちらの方式になっています。

前回お話した、180DPI のレーザー・プリンター"5569-R01"は、正規現像を使ったレーザー・プリンターでした。
トナーの掃き残しを防ぐために、レーザー光は、次の図のように多少重なった状態になるように、感光体の上に、白くすべきパターンを描いていきます。
当時、レーザー・プリンターの解像度の主流は、240DPI か 300DPI なのですが、これらの解像度のドットの大きさに比べて、180DPI のドットの大きさは大きくなりますから、どうしてもドットの間隔は大きめになります。
しかも、ドットがくっきりと表現されるため、ドット間の隙間が目立つ文字となってしまったことを、よく覚えています。
正規現像のドット・パターン

逆に反転現像であれば、レーザー光の重なった部分が、黒になりますので、隙間が目立つことはありません。
そのため、レーザー・プリンターでは反転現像が採用されているのだと思います。
同様に、インパクト・プリンターであれば、インクの滲みもあって、ドットの間は目立ちにくくなっています。
反転現像のドット・パターン

前回もお話しましたが、元は外字の印刷に配慮して、別の言い方で言えば、24 ドット・プリンターとの互換性を守るために、この解像度を選択したわけですが、実際に、メイン・フレームのデータを 3270PC 経由で印刷することを考えると、外字の印刷を求められることは無いと言い切って良いと思います。そう考えると、解像度は 240DPI や300DPI とする選択もあり得たのではないかと、今になって思います。
AS/400 の世界では、外字を使用することは前提条件として配慮することは必須ですが、メイン・フレームの世界は、その点が異なっているようです。

その後、"5550"シリーズも、"PS/2" を日本語化した"PS/55"シリーズに変化していくのに合わせて、レーザー・プリンターも製品ライン・アップの一つとして正式に開発することになりました。
開発のリーダーには、US のボルダーからレーザー・プリンター開発経験者を招聘し、その下に私も加わりました。ところが、思わぬ事情から、製品発表まで予想外の時間が掛かることになってしまったのです。