始めの言葉

「プリンターから印刷できて当たり前」と、ユーザーからもSIerからも軽視されがちなプリンターの世界ですが、実際にはお困りだったり、思ったような印刷結果が得られないまま我慢してお使いの皆様のために、今までの経験が役立てばと、このブログを立ち上げました。印刷の基本から、応用情報、問題の解決方法を情報発信すると共に、PDF化など、これからどうするかについても、ご相談に乗れれば幸いです。ご質問はコメントでお寄せください。

2017年3月5日日曜日

IBM 小型レーザー・プリンターの今まで -第1回- その黎明期

レーザー・プリンターは、レーザーを光源として、感光ドラム上に静電気で作った印刷イメージ(潜像と言います。)に対して、トナーというインクの粉末を付着させ、それを紙に転写した後、熱と圧力で紙の中に定着させるというプロセスのプリンターです。
その多くは、用紙にカット紙を使うタイプですが、連続用紙を使用する大型で超高速タイプのものもあります。
初めて世に出たのは、IBM が開発製造した 3800 型という連続用紙用の高速レーザー・プリンターであったと、私は教わっています。
IBM 3800 プリンター
用紙の表面に、静電気の力で付着させたトナーは、そのままでは手で触ると印刷イメージが崩れてしまいます。そのため、その後、圧力と熱を使ってトナーを融かして紙の中に定着させます。
熱と圧力を掛ける上下 1 組のローラーの間を用紙が通過していくわけですが、連続用紙の場合、用紙がローラーの間で少しでも斜めになってしまうと、圧力が掛かっているため、紙が先に送られるほど傾きの度合いが増幅し、用紙ジャムを引き起こすことになります。
それを防ぐため、自動的にローラー間の左右の圧力を調整して用紙の走行を真っ直ぐに保つ仕組みが組み込まれています。
この仕組みは、連続用紙の印刷では必須となりますが、用紙の長さの短いカット紙では不要になりますので、両者のコスト面での違いの大きな要因となります。

これからしばらくは、主に PC と接続して使用するデスクトップ・タイプの小型のレーザー・プリンターについてお話したいと思います。

私が初めに所属した漢字端末の開発部隊は、その後、プリンターのみの開発を担当することとなり、主に1983年から販売された"マルチステーション5550"用のプリンターを開発しました。
当時のプリンターの世界では、様々なメーカーからインパクト方式のプリンターの他に、熱転写方式のプリンターやレーザー・プリンター、インクジェット・プリンターといったいろいろな技術を使ったプリンターが開発されて、世に出始めていました。
それに応じて、私の所属していた部隊でも、インパクト方式のカラー・プリンター(これは私も担当しました)、熱転写方式のプリンターを開発し、発表しています。
その中で、デスクトップ型のレーザー・プリンターは、静かで高品質な印刷ができるということから、次のプリンターの本命として注目されていたのですが、社内で開発することが困難であったこと、OEM 製品を使用するにしても非常に高価になってしまうことから、製品化は、一旦は断念されていました。
しかし、ある製造メーカーのお客様から、メイン・フレームからのデータを、"5550" 上の "PC3270"(3270端末機能)を介して印刷できる小型のレーザー・プリンターのご要望をいただき、特定のお客様向けのモデル("RPQ" と呼んでいました)して開発が始まったのです。

レーザー・プリンターの小型化を実現した大きな要素は、その頃、発売された"C"社の"ミニコピア"を実現した、トナーと感光ドラムという現像機構を一体化した"カートリッジ方式"にあります。静電気を使用する電子写真方式は、湿度や温度、感光ドラムの表面状態などの影響を受けやすい繊細なプロセスを使用しますので、その中核となる現像プロセスをカートリッジとして一体化し、ユーザーが簡単に交換できるようにしたという考え方は、非常に画期的でした。
私たちが、OEM として使用することが決められたレーザー・プリンターは、"R" 社のもので、カートリッジ一体方式ではないものの、ベルト形になっている感光体はユーザーが交換できるようになっていました。A4 サイズとレター・サイズの2種類の用紙に対応し、給紙トレイは250枚用が1箇所、印刷速度は 8 枚/分という、今では 1 桁万円台のプリンターの仕様だったと記憶しています。

"3270PC" は、元々、24 ドットのインパクト・プリンターを想定した"5553"形式の印刷データをプリンターに送信しますが、このお客様のご要望に対応して、1 行の文字数が 132 桁を越える時には、用紙を横長に 90度 回転して使用するコマンドを発行する機能が追加されました。
そこで、プリンターもそのコマンドに対応する必要があります。
また、通常の文字は文字コードで送られてきますので、プリンターの内蔵フォントを使用して印刷しますが、外字は 24 ドット x 24 ドットのイメージで送られてきます。そこで、そのまま印刷できるようにするために、 OEM メーカーに対して、解像度をインパクト・プリンターと同じ、 180DPI とするよう依頼しました。
これには、OEM メーカーのエンジニアの方も、さすが IBM さんと、絶句していたのを今でも良く覚えています。(今から思えば、ロジックを使って、外字イメージのドット数を、イメージを崩さないように増やして解像度の低下を避ける方法もあったと思いますが、当時はこのように判断したのです。)

カット紙用のレーザー・プリンターでは、用紙トレイから用紙を送り出す際に、確実に 1 枚だけを送り出すために、摩擦を使っていますが、この時のプリンターでは下側に逆回転するローラーを備えるといった具合に、丁寧に設計されたプリンターだったと言えると思います。
反転ローラーを使った重送防止機構

このようにして、空前絶後の 180DPI のレーザー・プリンター "5569-R01" は完成して、1 台につき 100万円を越すという、今では想像できない価格が付いて、このお客様にご購入いただいたのでした。

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