始めの言葉

「プリンターから印刷できて当たり前」と、ユーザーからもSIerからも軽視されがちなプリンターの世界ですが、実際にはお困りだったり、思ったような印刷結果が得られないまま我慢してお使いの皆様のために、今までの経験が役立てばと、このブログを立ち上げました。印刷の基本から、応用情報、問題の解決方法を情報発信すると共に、PDF化など、これからどうするかについても、ご相談に乗れれば幸いです。ご質問はコメントでお寄せください。

2017年5月28日日曜日

IBM 小型レーザー・プリンターの今まで -第12回- "PAGES"-6

ボルダー発の製品群としては、他にシリーズ初のカラー・レーザー・プリンターとして、A4 サイズ用紙対応、8 枚/分の速度を持つ、"InfoPrint Color 8" が、2000 年に発表されました。
"InfoPrint Color 8" は、PAGES には対応しなかった(PAGES は元々カラーを想定していない)ため、国内の開発部隊は全く関与しませんでした。その結果、国内の事業部の製品企画を担当された方が、操作パネルの液晶ディスプレイに表示されるメッセージの翻訳を行なっていたことを覚えています。
InfoPrint Color 8

しかし、このボルダー発の製品シリーズを継続するほどの営業成績が上げられなかった(日本も含めて)ためか、2000 年に発表した、"InfoPrint40" や "InfoPrint21"が最後の製品となってしまいました。
私としては、日本語対応に不十分な面がありますが、他社のレーザー・プリンターと比べて競争力のある価格と、同等以上の機能、特に多くの種類のシステムに接続できる機能を持ったこのシリーズが終わってしまうことは、非常に残念でした。
このクラスのレーザー・プリンターは、IBM の小型プリンターを担当していたレキシントンの部隊が起源となった "Lexmark International社"(1991 年創立)の製品群でカバーすると判断されたのではないかと思います。
その結果、PAGES モードを持ったプリンターは、元の "558xシリーズ" のみに戻りました。

"558xシリーズ" のその後の展開を見ると、1999 年に、
- InfoPrint20 と同じ印刷機構を使った "5589-K20"(A3 サイズ用紙対応、印刷速度 20 枚/分)
5589-K20

と、
- A4 サイズ用紙対応、印刷速度 14枚/分の "5584-K14"
5584-K14

を発表しています。解像度は、どちらも同じ 360DPI です。
当時、同じ外観の "InfoPrint20" と "5589-K20" の違い、つまり、どのような場合にどちらを選んだら良いかについて、お客様や特約店の方から聞かれることが多く、苦労したことを覚えています。

2000 年には、1996 年に発表した "5587-K02"(16 枚/分)を同じ筐体で、印刷速度を高速化した "5587-L20"(20枚/分)を発表しました。その結果、A3 サイズ用紙対応で 20 枚/分の印刷速度を持つ "558x" プリンターが、"5589-K20" と併せて 2 製品となってしまいましたが、"5589-K02" の方が大量印刷向けとなっていました。
その後、2002 年に、より高速の 36枚/分の印刷速度を持つ "5589-L36" が発表されたことにより、"5589-K20" は置き換えられました。
5589-L36
5589-L36 2,000枚給紙ユニット付き
この "5589-L36" が、それまでの "558x" シリーズと異なる点は、PAGES の他に独自のイメージ処理モードを持っていて、その解像度は "600DPI" だったことです。1996 年の "5587-WIN" と同様に、Windows のプリンター・ドライバーからの印刷専用で、そのドライバーからは、解像度 600DPI のイメージ・データが送信されてくるという仕組みです。文字もイメージとして送信されてきますので、内蔵フォントを使用しません。Windows の印刷プレビューの画面イメージそのままに印刷します。
日常、オフィスで使用するワープロやメール、表計算は既に Windows 上のアプリケーションに置き換わった時代ですから、レーザー・プリンターもプリンター・ドライバーを使った印刷ができれば十分になります。そういった観点で、時宜に適った製品と言えますが、その反面、他社製品と正面から競争することになり、価格性能比が厳しく問われることとなりました。
また、Windows Server をプリント・サーバーとして使用するネットワーク経由の共有印刷も普及してきましたので、様々なネットワーク構成の下での使用方法など、営業をサポートする立場の私も勉強することが多くなりました。

では、そのような環境の中で、PAGES はどのような印刷において、まだ必要なのでしょうか ?
次回は、そのお話をしたいと思います。

2017年5月20日土曜日

IBM 小型レーザー・プリンターの今まで -第11回- "PAGES"-5

Network Printer シリーズ 3 モデルを一気に発表した翌年である 1998 年 には、A3 サイズ対応で中速(20 ページ/分)のモデル "4320-003" を、更に翌年 1999 年には、同じ A3 サイズ対応の高速(40 ページ/分)のモデル "4332-006" を、2000 年には、A4 サイズ対応で 20 ページ/分の速度を持つ "4322-003" を相次いで発表しています。
これらの主な特徴は、次のとおりでした。

- InfoPrint 20 (4320-003)
ブランド名が、"Network Printer" から "InfoPrint" に初めて変わりました。
また、ネットワークに接続して複数のユーザーで共有することを追求した結果、Windows PC からのドライバー印刷だけでなく、Mac や AIX からの 日本語 PostScript3 形式の印刷の場合にも、自動的に印刷データ形式を判断して切り換えて、印刷することができます。
その他、PAGES や、ドット・プリンター用として DOS/V の標準規格となった ESC/P にもオプションで対応します。
更に、大型システムや、AS/400 との直接接続印刷用として、AFP にも日本語対応するといった多彩振りです。
共有する以上、高い耐久性も必要で、月平均 7,500 枚、最高 75,000枚 の使用を想定した作りとなっていました。

印刷速度 : 20ページ/分(A4)
解像度 : 600DPI、1200DPI
印刷データ形式 : PCL5、日本語 PostScript3、IPDS(漢字)、PAGES、ESC/P、SCS(英数文字)
(IPDS、PAGES、ESC/P、SCS はオプション。)
InfoPrint 20
- InfoPrint 40 (4332-006)
既に気が付かれたと思いますが、4 桁の型式は、初め 2 桁は"43"で固定、後ろ 2 桁が印刷速度を表わすという仕組みになっています。しかし、この "InfoPrint 40" は、印刷速度が 40 ページ/分であるのに対して、型式は "32" となっています。これは、初めに海外で発表された時には、32 ページ/分の速度だったのですが、日本で発表する時点では、速度が少し高速化されて、40 ページ/分になったという経緯があったからです。
InfoPrint 40 は、InfoPrint 20 の 2 倍の印刷速度であるばかりでなく、給紙オプションや、排紙オプションによって、最高 3,550 枚の連続給紙や、最高 2,500 枚 の排紙容量を持った、最上位モデルでした。
サポートする印刷データ形式は、InfoPrint 20 と同じで、様々な形式の印刷データを自動判別して印刷することができました。
印刷速度が速いだけに、耐久性も月平均 50,000 枚となっていました。

印刷速度 : 40ページ/分(A4)
解像度 : 600DPI、1200DPI
印刷データ形式 : PCL5、日本語 PostScript3、IPDS(漢字)、PAGES、ESC/P、SCS(英数文字)
(IPDS、PAGES、ESC/P、SCS はオプション。)
InfoPrint 40
InfoPrint 40 フル・オプション構成
- InfoPrint 21 (4322-003)
これは、A4 サイズ対応のプリンターです。国内では A4 サイズ対応のプリンターは、A3 サイズ対応のものに比べてなかなか受け入れていただけませんでした。特に、このモデルだけは、PAGES と ESC/P オプションが用意されなかったので、従来製品との互換性の観点で、制約がありました。
それ以外は、意欲的な仕様を持っていた製品ですが、今となっては、その特徴を生かしきれなかったと思います。
印刷データ解像度 : 1200DPI
印刷速度 : 20ページ/分(A4)
耐久性 : 最高 100,000 枚/月
連続給紙容量 : 最高 1,750 枚
連続排紙容量 : 最高 1,100 枚
初めての Web ページ対応(ブラウザーを使って、プリンターの状況を表示したり、設定を変更する機能)
初めての IPP(Internet Printing Protocol) 対応
InfoPrint 21




2017年5月14日日曜日

IBM 小型レーザー・プリンターの今まで -第10回- "PAGES"-4

IBM の Boulder(ボルダー)事業所にあるプリンティング・システムズ事業部は、永年、大型のメイン・フレームや AS/400 といったシステムと直接接続して印刷する、大型のシステム・プリンターを開発してきました。それが、1997年に、"Network Printer"というブランド名で、カット紙用の小型レーザー・プリンターを 3 モデルも一気に発表したということは、私にとって驚きでした。
さすがに、プリンターの機構部(エンジンと呼びますが)は、日本のメーカーからの OEM 提供になっていますが、コントローラーと呼ばれる制御基盤や、ネットワークに接続するためのオプション・カードは、独自の設計のものでした。
世界共通仕様の製品になりますから、安価な低速モデルと、その上の中速モデルは、A4 サイズまでの対応となっています。A3 サイズに対応するのは、最上位モデルになりますので、速度が最も速く、給紙ユニットや排紙機構のオプションも、豊富に用意されていました。

各モデルの主な仕様は、次のとおりです。
- Network Printer12(4312-001)
印刷速度 : 12 枚/分(レター・サイズの場合なので、A4 サイズでは、11 枚/分)
最大用紙サイズ : レター、A4
解像度 : 600DPI
Netwrok Printer 12

- Network Printer17(4317-001)
印刷速度 : 17 枚/分(レター・サイズの場合なので、A4 サイズでは、16 枚/分)
最大用紙サイズ : レター、A4
解像度 : 600DPI
Network Printer 17 給紙カセット2段と10ビン・メール・ボックス付き

- Network Printer24(4324-001)
印刷速度 : 24 枚/分(レター・サイズの場合なので、A4 サイズでは、23 枚/分)
最大用紙サイズ : レター、A3
解像度 : 600DPI
Network Printer 24

"Network Printer"と名付けたくらいですから、その特徴は様々な接続方式を選択できるところにありました。

1. 通常のLAN(イーサネットもトークン・リングも)接続の他に、メイン・フレームと接続するための "COAX" 接続用のカードや、AS/400 と接続するための "Twinax" 接続カードを選択できました。

2. "COAX" 接続や "Twinax" 接続のために、"SCS" 形式と、"IPDS"(AFP)形式のコマンドをサポートしていました。


3. 通常のLAN接続やパラレル・インターフェイス用には、"PCL"形式と"PostScript"形式、そして"PAGES"形式のコマンドをサポートしていました。

4. 複数のユーザーがネットワークを介して共有する場を想定して、Network Printer17 モデルには"10ビン・メール・ボックス"と呼ぶ、10 段の引き出しになった排紙オプションがありました。この引き出しは、それぞれにパスコードを設定して、プリンターの操作パネルから自分用のパスコードを入力しないと開かないように設定することができました。

5. ネットワークを使って、プリンターがユーザーから離れた場所に設置された場合でも、プリンターの状態を把握できるようにするため、ユーザーの PC にインストールする "Network Printer Manager Utility" という、無償の管理ツールが提供されていました。

また、Network Printer 独自のエピソードとしては、1998年に開催された長野オリンピックで、IBM がスポンサーとなったこともあって、大量の Network Printer 17 が使用されたことが挙げられます。そして、それらは、オリンピック終了後、日本IBM 社内に配布され、オフィス用のプリンターとして使用されたものです。

ただ、COAX接続や、Twinax接続を使ったホスト・システムからの直接印刷は、残念ながら日本語対応されていませんでした。日本語のデータの印刷に対応できたのは、Windows3.1、95、NT4.0 や、OS/2 からの PCL モード用のプリンター・ドライバーと、PAGESを使った印刷でした。

Network Printer 用の PAGES コマンドは、それまでの 558x プリンターのものと次のような違いがあります。
- 対象となるプリンターの解像度が、600DPIであるため、300DPI、600DPI のイメージ・データを扱えること
- n-up 印刷や、排紙トレイの指定等、プリンターの機能に合わせたコマンドが拡張されていること
- APTi 社ではなく、大和研究所のプリンター開発チームによる開発であること

その後、"Network Printer" は、"InfoPrint" にブランド名を変えて、新たにモデルが発表されていきます。





2017年5月6日土曜日

IBM 小型レーザー・プリンターの今まで -第9回- "PAGES"-3

1994年には、"5589-H01" プリンターの後継機である、A3 サイズ用紙対応の"5588-H02" プリンターが発表されています。
1991年のプリンター開発会社の設立時には、私自身は、全く別の分野であるベンダー・ソフトウェアの部門に異動しました。
その後、大型のプリンターの営業や企画を担うプリンティング・システム事業部が、箱崎事業内に設立されましたが、1994年には、所謂、中小型のプリンター(主に、AS/400 用のライン・プリンターやドット・プリンター、レーザー・プリンターを指します。)のビジネスも担当するようになり、その担当範囲を拡大しました。
私は、その事業部の社内人材募集に応募して、1995年7月から、中小型プリンターの営業に対する技術サポートを行なうことになりました。
その時の初仕事が、この "5588-H02" プリンターの営業ガイドの作成です。
5588-H02 プリンター

1995年は、ご存知の方も多いと思いますが、Windows95 が発表され、インターネットが家庭にも普及していく切っ掛けとなった年です。しかし、それも、それ以前の、1990年に "DOS/V" が華々しく発表され、オフィス用の端末が、"J-DOS" を搭載した "PS/55" から、"PC-AT" 互換機に変化したという基礎があってのことだと思います。
併せて、"PS/55" の時代から、"LAN" が普及し始め、IBM 独自のトークン・リング方式か、イーサネット方式のどちらに集約されていくかという話題もありました。(結局、イーサネットに集約され、今やイーサネットという言葉も、使われなくなりました。)

プリンターも "LAN" に直接接続することが求められ、この "5588-H02" では初めてオプションとして、トークン・リング対応と、イーサネット対応、それぞれの "LAN" カードが用意されたことが、大きな特徴です。
この頃は、レーザー・プリンターの製品開発も盛んで、1996年には、次の 4 モデルが発表されています。
1. 5587-K02
"5588-H02" プリンターの後継機として、PAGES に対応、印刷速度は、A4 用紙 16ページ/分。
5587-H02/WIN プリンター

2. 5586-H02
"5587-K02" の低速モデルとして、 PAGES に対応、印刷速度は、A4 用紙 10ページ/分。
5586-H02 プリンター

3. 5587-WIN
Windows からの、プリンター・ドライバーを使った印刷専用モデル。
つまり、"5587-K02" と同じ筐体であって、PAGES には非対応として、内蔵フォントも持たない、価格を抑えたモデルです。
今から見れば、Windows 専用プリンターというのは、当たり前のように思えますが、当時はまだ、"J-DOS"、"DOS/V" も混在し、従来機との互換性にも配慮すると、Windows 専用というのは、冒険でありました。

4. 5584-K02
PAGES に対応し、最大用紙サイズを A4 とした小型レーザー・プリンター "5584-G02""5584-H02" の後継機。印刷速度は、A4 用紙 12ページ/分。
5584-K02 プリンター

A3 サイズまで対応できるプリンターと、A4 サイズまでとした小型プリンターの組み合わせというのが、この頃から今でも続いているレーザー・プリンターのライン・アップの考え方のようです。
実際にオフィスで使用する用紙のサイズは、ほぼ A4 サイズに集約されていて、A3 サイズが必要となるのは、図面や大きめの図表を印刷する場合だけという考え方から、価格やスペース面で有利な A4 サイズ対応の小型プリンターが主流になると予想していたのですが、実際には、A3 サイズまで対応できるプリンターが主流となっていました。この点は、A4 モデルに集約された海外の市場とは大きく異なる日本独自の状況と思います。
ちなみに、"5585-H01" プリンターで対応した B4 サイズは、初めは最大の用紙サイズとして必須でしたが、日本独自の規格であることから、プリンターの製造や輸出を考えると、すぐに最大の用紙サイズが A3 に移行していったのは、自然な流れと考えられます。

そして、1997年には、IBM ワールド・ワイドでも "Network Printer" と銘打って、レーザー・プリンターの新しいライン・アップを発表したのです。