しかし、J.D.氏の方針は、"3812"プリンターで採用した外部会社のアーキテクチャーと基本設計を基礎とすることでした。
IBM 3812 プリンター |
- アーキテクチャーとしては、2層構造となっています。つまり、実際に印刷するイメージを生成する層と、入力データを処理して印刷イメージを生成する層の内部処理に渡すためのデータ変換を行なう層でできています。その効果として、PC からの印刷データ以外にも、AS/400 や、汎用コンピューターからのデータに対しても、データ変換層を変えるだけで対応できるという点があります。
- ハードウェアとしては、当時はまだ珍しかった"3.5 インチ・フロッピー・ディスク"にマイクロコードを格納して、起動時に読み込むようにできていました。これによって、マイクロコードの修正や、機能拡張があっても、フロッピー・ディスクの内容を書き換えるだけで簡単に対応可能になります。
私たち、チームのメンバーは、自分たちの力が発揮できる、別の表現をすれば外部会社に依存することを避けられる内製を主張したのですが、最終的には、J.D.氏の方針で進めることに決まりました。この決定までの時間も、開発全体の遅れに影響したことは、否定できないと思います。
もう一方の、重要な要素であるレーザー・プリンターの機構部分も、どの OEM メーカーのものを採用するか決まるまでも時間を要しました。
特定のお客様向けに開発した "5569" レーザー・プリンターの経験から、国内で多くのお客様に採用していただける製品とするには、用紙サイズは "A4" だけでは不十分で、"B4"サイズも必須であることは分かっていましたので、その条件を元に、J.D.氏と共に、開発中の OEM 製品を何社も見て回ったものです。
実は、メンバーの間では某社の B4 サイズ機に決めていたのですが、突然、天の声がかかり、まだ試作機段階以前とも言えるレベルの、別の会社の A3 サイズ機を採用することになってしまいました。大は小を兼ねると言いますが、さずがに A3 サイズの用紙に対応するプリンターとなると、かなり大きくなります。それにも増して、デスク・トップ型のコピー機としてできているだけで、これから改造してプリンターとするわけですから、とても短期間では困難であることは明らかです。
案の定、開発期間は長期化し、最後に、そのメーカーのリーダーの方が、原稿を元にコピーを作成する機械と、原稿そのものを作成する機械では、印字品質一つをとっても、要求されるレベルが全く違うことが良く分かりましたとおっしゃっていたことを、よく覚えています。
開発期間が長期化した影響もあって、製品としての価格が予定よりも高くなってしまうことも、問題となりました。そこで、J.D.氏のアイデアで、プリンターの構成を次のように分けることになりました。
- 基本モデルは、5577互換レベルの機能
- 追加オプション(基盤のカードに指す、カートリッジ)によって、"3222"と呼んだ、レーザー・プリンターとしてのコマンド機能を追加
という構成です。
"3222"と呼んだ機能の主なものは、5577コマンドに追加する機能として下記のとおりです。
- 用紙方向縦/横の切り換え
- 縮小印刷
- 給紙トレイの指定
- 明朝体とゴシック体の内蔵フォントの切り換え
- 解像度 240DPI のイメージ・データ
- 32 x 32 ドットで構成された外字
このようにして、発表されたのが、"5587-G01" プリンターです。
(残念ながら、写真等を残していないので、形をお目に掛けられません。)
一方で、当時、PS/55 の OS は、J-DOS と OS/2 で、その上で稼動するアプリケーションが、直接印刷データを生成する方式でした。
今の Windows のプリンターに付属するドライバーが印刷データを生成する方式と異なり、様々なアプリケーション・プログラムが直接、プリンターが持っているコマンドを発行することで、初めてそのプリンターの機能を使って刷できるという方式です。
従って、いくらプリンター側で高機能なコマンドを用意しても、アプリケーション・プログラムがそのコマンドを送って来なければ、宝の持ち腐れでしかありません。
そのため、レーザー・プリンターを販売する各社は、それぞれ独自の定義で決めたコマンドを、様々なアプリケーション・プログラムのメーカーに開示して、対応していただくよう働きかけをしていたものです。
例えば、ワープロ(文書作成)プログラムでは、"一太郎"が圧倒的なシェアを占めていましたので、各プリンター・メーカーは、開発元であるジャスト・システム様に日参していたはずです。
つまり、当時のレーザー・プリンターのメーカーは、独自コマンドを拡張し、それに対応するアプリケーション・プログラムを増やし、その結果、自社コマンドが業界標準の地位を築くことを目指していたという訳です。
私も、IBM 社内のソフトウェアの開発チームに対して、"3222" のコマンド対応をお願いして回りましたが、各製品の開発項目の優先順位とリソースの関係もあって、なかなか思ったようには進みませんでした。最終的に、OS/2 や J-DOS という OS の開発チームからは、32 ドット対応の外字をサポートするという協力はいただけたのですが、当初は、何故、外字の対応だけなのかが理解できていないというありさまでした。
コマンドの拡張に関しては、プリンター開発チームの中で、他社のものと同等以上のものを目指して行なわれ、後に "PAGES" と呼ぶ、コマンドのセットが定義されました。
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