当時は、ちょうど、システム36 やシステム38 がAS/400に変化していく頃で、そのプリンターとして、ライン・プリンターの他に、連続用紙対応のレーザー・プリンターの開発が行なわれていて、そちらに開発のエンジニアの大部分が割かれていたということが、少人数体制となったことに大きく影響していると思います。
因みに、その連続用紙対応の方のレーザー・プリンターは、"5337-001" というプリンターで、元々連続用紙用に OEM 元で開発されたものに対して、カット紙も扱えるように機構を追加したという、これまたレーザー・プリンターの世界では、空前絶後のプリンターでした。
話は、横道に逸れますが、このプリンターは、他にも、当時でも珍しい特徴がありました。それは、トナーの定着方式に、"フラッシュ定着"という方法を採用していたことです。
IBM 小型レーザー・プリンターの今まで -第1回- その黎明期 の中でお話したように、感光ドラムから、用紙の表面に移したトナーは、多くの場合、熱と圧力を使って、用紙の中に定着させます。
定着方法には、他に、"フラッシュ定着"と、"圧力定着"があります。
"圧力定着"は、文字通り、トナーの乗った用紙を、圧力の掛かった上下のローラーの間を通すことで、トナーを用紙の中に定着させる方式です。
この方式を使ったプリンターとしては、"5337"プリンターの前に開発された"5583-200"プリンターがあります。今や私の手元には画像も残っていませんが、IBM i(OS/400) の資料には、未だに 32x32 ドットの日本語プリンターのモデルとして名前が出てきます。
"5583-200"プリンターは、OEM 元から提供を受けたプリンター本体に対して、"コントローラー"と呼んでいたデータ処理部分を自社開発してできた、カット紙用のプリンターです。
解像度は、240DPI であったことと、圧力定着方式のため、用紙が定着機構を通過する時に、"ゴットン"と音が発生したいたことを覚えています。
トナーの定着の評価は、粘着テープを付けて剥がしたり、消しゴムで擦ったりして行ないますが、"圧力定着"方式は、どうしても熱定着ほどの定着の良さはありませんでした。もちろん、省電力という点では優れた方式と言えると思います。
また、このプリンターの機能を活用するために、KPF(Kanji Print Facility) というソフトウェアーも併せて開発されましたが、期待ほどの台数は売れなかったようです。
一方で、"5337-001"で採用されていた"フラッシュ定着"方式は、カメラのフラッシュと同様に、強力な光を用紙に当てると、黒いトナーに光エネルギーを吸収されることで、トナーが溶けて紙に定着するという方式です。
この方式の良さは、用紙に圧力を掛けないため、用紙に対する制約が少ないことです。つまり、熱や圧力の伝わり辛い厚紙や、熱や圧力を掛けると、糊がはみ出てきてローラーに張り付いたり、汚したりするラベル紙も使用できるということです。
逆に、大量の光エネルギーを発生させるため、電源として 200V が必要になることや、トナーが自分で溶けて紙に定着するため、定着の程度が不安定な点に、制約があります。
実際に、この "5337-001" プリンターの開発でも、一定の印字品質を実現させるために、OEM 元のメーカーも巻き込んで、かなりの時間を費やしました。
しかし、その後、他社の連続用紙用の高速レーザー・プリンターでは、フラッシュ定着方式の改善が進んでいたようで、熱定着方式よりも次の点で優れていると評価されるケースが多いようです。
- 用紙の制約が少ない
- ヒーターの温度上昇を待つ時間が不要なので、用紙の架け替えが多い運用では、印刷開始まで待ち時間が短い。
なお、"5337-001"プリンター用には、240DPI の解像度を持ち、連続用紙とカット紙の切り換えや、レーザー・プリンターとしての機能を活用しやすくするために、APPW(Advanced Page Printer Writer) というソフトウェアーも併せて開発されました。
ライン・プリンター用には、罫線やバーコード、文字拡大の指定を行うために "APW(Advenced Printer Writer)"が開発され、今でも使用されているユーザーがいらっしゃいますが、そのレーザー・プリンター用のものが、"APPW"と言えます。
このプリンターも、残念ながら、計画ほどの実績を上げることはできませんでした。
5337-001プリンター外観図 |
さて、話を元に戻します。少数精鋭チームのマネージャーとしてアサインされたのは、US の Boulder の研究所で、レーザー・プリンターの開発の指揮を執られていた、J.D. 氏でした。
彼が開発した "3812" というプリンターは、AS/400 の世界でも、デバイス・タイプとして名前が出てくるような、標準プリンターでした。
私としては、初めての外人の上司になったわけですが、今、思い返してみると、当時の私の未熟さもあって、本質的な意味でのコミュニケーションができていなかったという反省が残ります。