始めの言葉

「プリンターから印刷できて当たり前」と、ユーザーからもSIerからも軽視されがちなプリンターの世界ですが、実際にはお困りだったり、思ったような印刷結果が得られないまま我慢してお使いの皆様のために、今までの経験が役立てばと、このブログを立ち上げました。印刷の基本から、応用情報、問題の解決方法を情報発信すると共に、PDF化など、これからどうするかについても、ご相談に乗れれば幸いです。ご質問はコメントでお寄せください。

2016年8月27日土曜日

ライン・プリンターの全て - 第7回- 日本語ライン・プリンターの歴史-7

前回ご紹介した"5400-L02"と同じく、2002 年に発表された、最高速モデル"5400-L10"は、他のモデルと異なり、1回の移動で縦 12 ドットを印刷する印字ヘッドを、上下 2 組持っています。そのため、縦 24 ドットの 1 行を印刷するには、印字ヘッドが右から左、若しくは左から右に 1 回移動するだけで済んでしまうので、高速印刷が可能になっています。しかし、それだけに、2 組の印字ヘッドの位置の調整を正しく行なわないと、文字は罫線が歪んで印刷されることになります。
また、1 回の印字ヘッドの移動で 1 行印刷できるために、インク・リボンの幅も広くなっています。そのため、他の中速モデルと低速モデルは、同じ詰め替えリボンが使えますが、"5400-L10"は別のものとなっています。
また、印刷速度が速いということは、その分、耐久性も高くないとなりません。そのために、用紙を送るためのトラクターも、他のモデルと異なり、かなりがっちりしたものとなっています。
5400-L10 外観
<"5400-L10"プリンターの主な仕様>
- 印刷速度 : 600 行/分(通常速モード)
                  800 行/分(高速モード、横方向 1/3 ドット間引き)
                  1,000 行/分(超高速モード、横方向2/3ドット間引き)
- 想定月間平均印刷枚数 : 20,000枚(15x11 インチ・サイズ用紙)
- 複写枚数 : オリジナル + 7 枚(コピー強化モード、厚さ 0.5mm まで)
- インターフェイス(標準) : Twinax、LAN、パラレル
- 対応コマンド : SCSコマンド、テキスト・コマンド(Telnet5250E、Twinax)
                      5577コマンド (LPR、パラレル・インターフェイス)、
                      ESC/Pコマンド (LPR、パラレル・インターフェイス)
- 内蔵日本語フォント : IBM 明朝体、平成明朝体、新旧JIS規格選択(5577 モード)
- 英小文字と半角カナの共存印刷 : 可
- バーコード・コマンド : 対応(8 種類、SCS、テキスト・コマンド、5577 モード)
- 販売期間 : 2002 年 - 2009 年

翌年、2003 年には、"5400"シリーズの中核となる中速モデル"5400-L06"が、発表されました。このモデルによって、中速モデルも内蔵 LAN カードが他の速度のモデルと共通となり、共通仕様となっています。
5400-L06 外観
<"5400-L06"プリンターの主な仕様>
- 印刷速度 : 360 行/分(通常速モード)
                  500 行/分(高速モード、横方向1/3ドット間引き)
                  600 行/分(超高速モード、横方向2/3ドット間引き)
- 想定月間平均印刷枚数 : 12,000枚(15x11 インチ・サイズ用紙)
- 複写枚数 : オリジナル + 8 枚(コピー強化モード、厚さ 0.5mm まで)
- インターフェイス(標準) : LAN、パラレル
                        (オプション) : Twinax(LAN、パラレルと共存可能)
- 対応コマンド : SCSコマンド、テキスト・コマンド(Telnet5250E、Twinax)
                      5577コマンド (LPR、パラレル・インターフェイス)、
                      ESC/Pコマンド (LPR、パラレル・インターフェイス)
- 内蔵日本語フォント : IBM 明朝体、平成明朝体、新旧JIS規格選択(5577 モード)
- 英小文字と半角カナの共存印刷 : 可
- バーコード・コマンド : 対応(8 種類、SCS、テキスト・コマンド、5577 モード)
- 販売期間 : 2003 年 - 2006 年

細かい点ですが、"5400-L06"では、"5400-006/S06"から改善された点があります。それは、印刷中に印字ヘッドの前に来たインク・リボンにつなぎ目があることを、自動的に検知して、その部分は印刷に使用せず、飛ばす機能が追加されたことです。
インク・リボン・カートリッジとインク・リボン
インク・リボンは、長い布のリボンの両端を、溶かして接着し、大きな輪の状態になっています。リボンを 1 回ひねってから接着すると、"メビウスの輪"となりますので、印刷する際にインク・リボンが回転していくと、自動的に表と裏の両面を印字ヘッドのピンが叩くことになります。これは、1 本のインク・リボンをできるだけ有効に使用するための知恵なのですが、このつなぎ目の部分をピンが叩くと、他の部分よりも毛羽立ちしやすくなります。その毛羽立った先が用紙の表面をこすり、インク汚れを付けるという現象が、この中速モデルで発生しました。
(不思議なことに、高速モデルや低速モデルでは発生していないようです。)
その対策として、インク・リボンのつなぎ目の近傍にマークを付け、プリンター側に追加したセンサーが印字中にそれを検知したら、その部分が通過してから印刷するような改良を加えました。その結果、5400 プリンター用のリボンには"スキップ機構対応"とそうでないものの 2 種類が存在しますが、当然、"5400-L06/F06"用には"スキップ機構対応"のものが、お勧めです。

2016年8月20日土曜日

ライン・プリンターの全て - 第6回- 日本語ライン・プリンターの歴史-6

AS/400用ライン・プリンターの標準機として、"5400-006"が1998年に発表され、更に、2年後の2000年には、LAN 接続用のオプションも発表されて、当時の IBM ライン・プリンターは磐石の地位を築いたように思えましたが、やはり世の中に"競合"は常にあるものです。互換機メーカーから同じクラスのライン・プリンターが発表され、そのモデルでは、プリンターの左側面に、印刷済みの用紙を取り出せる扉が付いていました。
保守も含めて必要な設置スペース
ライン・プリンターでは、一度に大量のページを印刷することが多くあります。印刷が終了すると、通常は、操作パネルで、印刷中断状態にしてから"改ページ"ボタンを押して、印刷した最終のページの下側のミシン目で用紙を破れるように紙送りします。

印刷済みの用紙は、プリンター内部の後ろ側に落としますので、それを回収するには、後ろの扉を開けないとなりません。それは、プリンターの後ろ側には予め、扉を開けるためのスペースを空けておかないとならないことを意味します。マニュアルにも左のような図で説明してあるのですが、実際にはそのような空きスペースの余裕が無いお客様が多く、プリンターの後ろは壁に付けて設置したいというご要望は、古くからありました。



 その点で、プリンターの左側面や右側面に扉があれば、背面を壁に付けて設置しても、横から印刷済みの用紙を取り出すことができます。
左側の扉を開けた様子
 そこで、急遽、2002年に、左側に扉を付けた"5400-S06"という、"5400-006"の派生モデルを発表しました。
この"5400-S06"では、3種類のインターフェイス、パラレル、Twinax、LAN を標準装備していたのも大きな特徴です。


2002年は、ライン・プリンターの当たり年で、新製品が、他に 2 種類発表されています。
低速モデルの"5407-001/011"の後継製品である、"5400-L02"と、高速モデルの"5427-001"の後継製品である、"5400-L10"です。
先に発表された"5400-L10"は、後にバージョン・アップも行われて、"5400-L02"、"5400-L06"、"5400-L10"は、共通となる仕様を多く持つようになりました。その共通の仕様とは、次の 8 点です。
  1. LAN とパラレル・インターフェイスが標準("L10"モデルは、Twinax 接続も標準)
  2. Telnet5250E で必要な、外字の保存可能な文字数は、4,370 文字(5400-S06は、4,370文字、5400-006 の LAN オプションでは1,152 文字)
  3. JIS第3、JIS第4標準の文字を内蔵し、CCSID1399(バージョン1)に対応
  4. 内蔵フォントの書体は、IBM 明朝体のセットの他に、平成明朝体のセットも選択可能
  5. Web ページにより、操作パネルの液晶表示を PC 上で表示、初期設定を PC から変更可能(← 訂正 : L10モデルでは、後継のF10モデルから実装)
  6. バーコード・コマンドによるバーコードを印刷する行のみ、ドットを間引かない通常速モードで印刷することによって、高速モード、超高速モードでも読み取り精度の低下なくバーコード印刷が可能
  7. バーコードの種類は、元々ある6種類の他、郵便番号、CODE128、QRコード(5577モードのみ)
  8. SCS コマンド以外に、文字データのようにして、バーコードや文字拡大を指定可能な、テキスト・コマンドの採用(バーコードの印刷方法 - 第2回 コマンドを使う、もう一別の方法 -を併せてお読みください。)
5400-L02外観
<"5400-L02"プリンターの主な仕様>
- 印刷速度 : 150 行/分(通常速モード)
                  205 行/分(高速モード、横方向1/3ドット間引き)
                  225 行/分(超高速モード、横方向2/3ドット間引き)
- 想定月間平均印刷枚数 : 6,000枚(15x11 インチ・サイズ用紙)
- 複写枚数 : オリジナル + 8 枚(コピー強化モード、厚さ 0.5mm まで)
- 対応コマンド : SCSコマンド、テキスト・コマンド(Telnet5250E、Twinax)
                      5577コマンド (LPR、パラレル・インターフェイス)、
                      ESC/Pコマンド (LPR、パラレル・インターフェイス)
- 内蔵日本語フォント : IBM 明朝体、平成明朝体、新旧JIS規格選択
- 英小文字と半角カナの共存印刷 : 可
- バーコード・コマンド : 対応(8 種類、SCS、テキスト・コマンド、5577 モード)
- 販売期間 : 2002年 - 2009年

2016年8月14日日曜日

ライン・プリンターの全て - 第5回- 日本語ライン・プリンターの歴史-5

日本語ライン・プリンター・シリーズの中核となる中速モデルが、耐久性を向上した"5400-006"に代わって、一安心といったところでしたが、次の課題が新たに出てきました。
"5400-006"プリンターが発表された1998年の3年前は、Windows95が発売され、インターネットの普及が始まった年です。インターネットの普及に合わせて、企業の現場では、ネットワークは、IBM独自のTokenRing(トークン・リング)方式からEthernet(イーサネット)方式へ、プロトコルも、IBM独自の"SNA"から、"TCP/IP"へというように、メーカー独自規格から業界標準規格に移っていく傾向が始まりました。AS/400 の世界では、機器の接続が、"Twinax"接続から"ネットワーク"接続へ、徐々に移行していったわけです。AS/400 自体でも"Twinax"接続機構は、標準からオプションへと変わって行きます。

そうなると、ライン・プリンターの接続方式も"Twinax"接続ばかりではなく、PCOMM のプリンター・セッションを経由した方式が増えていきました。それは、プリンターに対して印刷データを生成して送信してくるのは、AS/400 ではなくなり、"ibm5577.pdt"というPDTファイルを参照して、5577 形式の印刷データを生成、送信するプリンター・セッションになることを意味します。

そのような状況の中で、お客様から問題として指摘され始めたのが、"Twinax 接続と比べて、プリンター・セッション経由では、罫線のある行の印刷が遅い。"という現象です。(因みに、ライン・プリンターで印刷が遅いというのは、印刷中に紙送りが止まることがあることを意味しています。)
プリンターの開発部門と一緒に原因を調べて判明したことは、次のとおりです。
  1. 罫線は縦24ドットのイメージ・データとして、プリンター・セッションから送られている。
  2. 実際に印刷する罫線は、縦2ドット程度の"黒イメージ"だったとしても、印刷データとしては、残りの縦22ドットの"白イメージ"もあるわけで、罫線の長さに比例して、印刷データ量が大きくなる。
  3. その印刷データを生成する PC 側の処理速度、ネットワークによる通信速度、受信したプリンター側での処理速度、全てに対して負担が大きくなって、印刷速度の低下を引き起こしている。(現在の PC の処理速度や、ネットワークの通信速度だったら考えられないことですが)
5577モード :2ドット幅の横罫線の印刷データ
しかし、プリンターの開発部門で対応できるのは、プリンター側での処理速度でしかありません。それでは効果を期待できませんので、対策として決まったのが、"Telnet5250E"接続の採用です。その狙いは、次の2点です。
  1. 標準のプロトコルとなっていく"TCP/IP"の規格の一部であって、Twinax接続とほぼ同じ操作性を実現できること。
  2. 罫線を引くためのコマンドが、AS/400 から発行されるSCS形式のコマンドとなるため、罫線の始点と終点を座標で指定する方式になる。そのため、罫線を印刷するためのデータ量の大幅な削減が期待できる。
SCSモード : 横罫線の印刷データ
"Telnet5250E"については、AS/400からの印刷 ~基礎編-3~をご参照ください。

"5400-006"プリンターでは、2000年に、LAN カードを Twinax カードとの選択オプションとして発表しました。新規発注分に対して選択できるだけでなく、使用中の"5400-006"プリンターに対しても、技術員による交換作業により、LAN 接続に変更できるようになっていました。
LAN カードは、プロトコルとして"Telnet5250E"だけでなく、"LPR"も初期設定で選択可能となっていました。"LPR"プロトコルに設定した場合には、"5577モード"か"ESC/P"モードに対応したプリンターとして使用できます。具体的には、Windowsが稼動するPCや、AIX が稼動するIBMワークステーション(RS6000)からの印刷にも使用できるということです。整理すると、Twinax接続の代わりにLAN カードを選択した場合、次の3種類の内1種類のプリンターとして使用できるということになりました。
  • AS/400 からTelnet5250Eを使った印刷(SCSコマンド)
  • PC や RS6000 からLPR/LPDを使った印刷(5577モード)
  • PC や RS6000 からLPR/LPDを使った印刷(ESC/Pモード)
実際に、この LAN カードを使った"Telnet5250E"によって、罫線による印刷速度の低下は解消しました。

2016年8月6日土曜日

ライン・プリンターの全て - 第4回- 日本語ライン・プリンターの歴史-4

第2回に出てきた"5417"プリンターは、耐久性の指標となる"想定月間平均印刷枚数"が、その前の"5327"プリンターの 2/3 だったことが影響してか、耐久性 = 故障率の面でお客様から問題を指摘されることが多くありました。

因みに、"想定月間平均印刷枚数"は、プリンターを設計する時に、どの程度の耐久性を持たせるかを判断する元の数字となるものです。そして、この値を元に、各部品の故障率が算定され、それを元に保守作業のコスト(部品代と人件費)が計算され、それを元に年間保守契約料金が決まってきます。また、日本語ライン・プリンターの無償保証期間は1年間ですが、その間の保守コストは、製品価格を決める時に組み込まれます。
従って、"想定月間平均印刷枚数"以上の枚数を継続して印刷すると、お客様から見れば、故障頻度の高いプリンターとなり、現場のユーザーのクレームの元になります。一方、保守する側から見れば、一定料金の保守契約料金に対して、コストが大きくなり、赤字になる可能性が出てくるということに繋がります。

そこで、"5417"が発表された 1994年から4年というライン・プリンターとしては比較的短期間の後、1998年に、耐久性を改良した"5400-006"プリンターが発表されました。
  • 5400-006

"5400-006"は、"5417"の改良版ですから、外観上は操作パネルの色が変わった程度で、大きな違いはありません。しかし、中身は改善されています。
  1. <耐久性>懸案だった"想定月間平均印刷枚数"は、"5327"と同じ"12,000枚(15x11インチ用紙)/月"になりました。
  2. <インターフェイス>Twinax ケーブル用のコネクターと、パラレル・インターフェイス・ケーブル用のコネクターの両方を持ち、初期設定で、どちらの接続方式を使うかを選択できるようになりました。これによって、発注時にモデルを意識する必要がなくなったと共に、初めはTwinaxケーブルで接続し、将来はパラレル・インターフェイスで接続するという使い方も可能になりました。一方、販売する上からは、在庫管理が楽になりました。なお、"5400-006"から、パラレル・インターフェイス・モードでは、従来からの"5577"モードに加え、"ESC/P"モードも初期設定で選択可能となっています。
  3. <印刷速度>通常速モードの印刷速度が、330行/分から360行/分に向上しました。それに伴い、高速モードは、430行/分から500行/分に、超高速モードは、500行/分から600行/分に向上しています。
  4. <バーコード・コマンド>少し前に始まった、郵便番号用のバーコード・コマンドを追加しています。
5400-006プリンター外観
 <"5400-006"プリンターの主な仕様>
- 印刷速度 : 360 行/分(通常速モード)
                  500行/分(高速モード、横方向1/3ドット間引き)
                  600行/分(超高速モード、横方向2/3ドット間引き)
- 想定月間平均印刷枚数 : 12,000枚(15x11 インチ・サイズ用紙)
- 複写枚数 : オリジナル + 7 枚(コピー強化モード)
- 対応コマンド : SCSコマンド(Twinax接続)、5577コマンド(パラレル・インターフェイス)、
                       ESC/Pコマンド(パラレル・インターフェイス)
- 内蔵日本語フォント : IBM 明朝体、新旧JIS規格選択
- 英小文字と半角カナの共存印刷 : 可
- バーコード・コマンド : 対応(7種類)

- 販売期間 : 1998年 - 2003年
- 保守終了 : 2017年予定